考えるタネと物のミカタ

たくさんの物の見方から、考えるタネが生まれて

【エッセー】父の本棚

 父を亡くして随分とたつけど、本棚はそのままになっている。今まで、見もしなかった本棚を整理しようと1冊ずつ取り出して埃をとってみる。どんな本を読んでいたんだろうと、頁をめくると色んな所に線が引いてある。

 大人になってから住むところも違かったし、会話することも少なかった。父が何を考え、何を大事にしていたかなんて知らないうちに、もう2度と会えない人になってしまった。その線が引いてある所が父のメッセージに見えてくる。

 線が引いてあるところは間違いなく父が感動した部分であったり、重要だと思った所であるはずだ。わたしはその本棚の本を何冊も何冊も頁をめくって、読むというよりも線が引いてある所を探して、そしてノートに書き写した。

 書き写したノートは何冊にも及んだ。読み返すと、自分と似たようなところに感動している。いや、わたしが父に似ているだなと感じた。大人としての生き方を教えてもらう機会は生前には無かったけれど、こんなやり方で父と会話するとは思ってもみなかった。

 ふと見たことがある本に目が止まった。最近わたしが読んでみたいと思っていた本だ。もう、父は読んでいた。買わなくてよかった、と思うよりも、父も読んでいたということに嬉しく思ってにやりとした。